研究紹介
実切取り厚さの切削力による推定に基づいたエンドミル加工の加工面形状シミュレータ
金属加工において加工面形状の推定は製品の品質確保のために重要性が高い.しかし,加工において工具の振れ回りや被削材の振動など様々な要因により,加工条件に基づく幾何的なモデルのみを用いて精度よく形状推定を行うのは困難である.そこで本研究では,スクエアエンドミルの切削力から逐次の切取り厚さの推移を求め,加工面形状を推定するモデルを構築した.
具体的には,切削モデルと切削領域判定アルゴリズムを組み合わせて時間領域での切削シミュレータを構築した.実際の側面加工における切削力を用いて加工面形状をシミュレーションすると,切れ刃周波数に同期した加工面形状の周期成分を確認できた.また,切削力の振動が切取り厚さに影響を与え,シミュレーション上において極端に切込みが大きくなることがあった.
一姿勢からの撮像結果のみを用いた円運動精度試験における直角度測定精度の評価
近年,モーションキャプチャリングを用いた画像による測定が,工作機械の運動誤差計測で注目されている.しかし,この測定方法はカメラの設置角度の誤差や撮像による像のゆがみといった精度を低下させる要因を含んでおり,それらが測定精度に与える影響の評価は不十分である.そこで本研究ではモーションキャプチャを用いた画像による円運動精度試験における直角度測定精度について,特にカメラの設置誤差が与える影響を調査した.
光学系による像のゆがみやカメラの設置誤差,ピクセル分解能の不確かさが直角度の測定精度に与える影響をシミュレーションにより調査し,特にカメラの設置誤差が与える影響について実験とシミュレーションの両結果を踏まえて評価した.その結果,カメラの設置誤差は光学系による像のゆがみよりも直角度の測定精度に与える影響が小さく,外部パラメータは±100 μm/70mmほどの精度で調整すれば直角度同定精度は十分であるとわかった.
接触面における仮想粘弾性体への置換を利用した構造体の振動特性の推定
機械構造体において,部材締結部などの接触面の振動特性は機械全体の振動特性に大きな影響を与える.しかし,接触面の剛性と減衰性は推定が難しく,振動特性の推定を困難にしている.特に,減衰性の推定は難しく,コンプライアンスの大きさを推定することは困難である.本研究では,接触面近傍領域を仮想粘弾性体に置き換えることで,有限要素法を用いて接触面を含む機械構造のコンプライアンスを推定する方法を構築する.このために,接触面における微小突起の変形メカニズムにもとづいて仮想粘弾性体の材料特性を決定する方法を提案する.提案法では,微小突起の弾塑性変形と滑りによる履歴減衰を考慮しており,シミュレーション結果から仮想粘弾性体のレイリー係数を決定できる.提案法によるコンプライアンスの推定精度をシミュレーションと実験の比較により調べた.その結果,周波数応答のピーク高さは大きくとも2.13倍の差で推定された.しかし,固有振動数は一致せず,等方性材料に置換する手法の限界性が示された.
本研究はマザック財団の助成を受けたものである.
微小突起の変形シミュレーションに基づいた金属間接触面の振動特性の予測
近年,サブミクロンオーダの形状,寸法精度を高精度かつ高能率に得る加工への需要が高まっている.ボルト締結部をはじめとした各種機械要素間の結合部における接触剛性,接触減衰は,工作機械の加工精度に大きな影響を与える.そのため,接触剛性,接触減衰を精度よく予測することの出来るモデルが求められている.接触剛性の予測については,これまで多くの研究が行われており,精度の良い接触剛性予測モデルも存在する.しかし,精度の良い接触減衰予測モデルはいまだ提案されていない.これは,接触減衰の要因と考えられてきた,微小突起の弾塑性変形,クーロン摩擦がミクロスケールの現象であり,不明な点が多いからである.そこで本研究では,微小突起の変形を考慮した接触剛性,接触減衰の予測モデルを提案した.有限要素法によるミクロスケールのシミュレーションを接触面条件に基づき統合することで,接触面全体の剛性,減衰を予測した.ミクロスケールのシミュレーションの妥当性は,マイクロX線CTを用いた金属接触面における微小突起変形の観察結果と比較することで確認した.提案した予測モデルを用いることで,詳細な材料データが既知である材料で形成された接触面における接触剛性を定量的に予測することができた.また,接触面に負荷される垂直方向荷重が増加した際の接触減衰の定性的な変化に関しても予測することができた.
本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金JP20H02046,JP21H01225,マザック財団の助成を受けたものである.
炭素繊維強化プラスチックを用いた主軸の設計
主軸は工作機械の主要要素部品であり,その機械的・熱的特性が加工に大きな影響を与えることが知られている.炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を主軸シャフトに使用することで,高剛性・低熱膨張な主軸の実現を目指した.
本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構「新構造材料適用省エネ型工作機械の研究開発」プロジェクトにより実施されました.
支持減衰付加によるロッキング振動の低減
テーブルなどの加減速によって生じる低周波振動はロッキング振動とよばれ,加工能率低下の原因となる.ロッキング振動には支持部の振動特性が大きく影響するため,支持部の減衰を増加させることがロッキング振動の抑制に有用である.そこで,支持剛性を低下させずに支持減衰を増加できるダンパを開発した.
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 JP17J00200の補助により実施されました.
工作機械据付のためのロバストなレベル誤差推定方法
長いベッドを持つ工作機械は,複数の支持部を用いてレベル調整を行うことで、ベッドの変形を補償する.従来は,熟練した設置者が試行錯誤的な方法での経験に基づいてレベル調整を行っていました.そこで,ノイズにロバストで定量的なレベル調整法を提案しました.この方法は,支持部の荷重変化と支持部の長さ調節量の関係をモデル化し,荷重センサのノイズを考慮したことで,実用的な荷重センサを用いて提案手法を実装することができました.
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 JP17J00200の補助により実施されました.
低剛性工作物のオンマシン剛性測定システム
加工時の相対振動の低減のために,動剛性測定は重要である.本研究では,圧電素子への印加電圧と加振力を測定し,等価機械モデルから工作物の変位を推定する方法を提案した.その結果,変位測定センサ必要としない,工作物の機上剛性測定システムを実現した.
熱変位を許容値以下に抑え,冷却エネルギを最小化するon-off冷却方法
工作機械のエネルギ消費で冷却システムが占める割合は無視できない.最新の工作機械に広く搭載されている,ヒートポンプ型冷却システムは任意の温度に冷却液温を調節できる一方で,消費エネルギが大きいという欠点がある.本研究では,熱変位の低減と冷却エネルギの削減にあるトレードオフ関係に着目し,熱変位を許容値以下に抑えながら冷却エネルギを3割程度削減できるon-off冷却方法を提案した.
本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 JP17J00200の補助により実施されました.
真実接触面の3次元形状測定に基づく接触面の表面性状の設計法
切削加工面に残るカスプを交差させ接触させることで,真実接触面の分布を管理し接触剛性を向上させる,Cutter mark
Cross(CMC)法を提案した.今後,CMC法を一般の切削加工面の締結部に応用するため,表面性状を算出する方法を検討する.
Directed Energy Depositionにおける造形物の形状精度を保証する積層手法
Directed Energy Deposition(DED)法は,ノズルから供給される金属粉末をレーザによって選択的に溶融・結合することで積層する金属積層造形法である.この技術の産業応用には,造形物の形状精度の保証が不可欠であるが,積層条件によっては造形物の形状精度が悪化する場合がある.そこで,積層条件を試行錯誤的に決定することなく,造形物の形状精度を保証できる積層手法を提案した.
微細加工面の評価方法に関する研究
加工条件を決定するために,加工面の良否が判定されます.良否の判定基準には,表面粗さなどの定量化された指標だけでなく,光沢や色味といった,人の直感に基づいた指標(官能指標)もあります.本研究では,官能指標を調査し,これをもとに加工面を定量的に評価することを目的としています.
滑らかな送りを実現する直動転がり案内の設計のための摩擦力変動のモデル化
本研究では,摩擦力変動の観点から転動面性状を設計する指針を提案するため,1つの球が2転動面間を転がる場合の摩擦力変動を算出するモデルを提案した.そのモデルにより摩擦力変動の波形,波長を再現でき,振幅を実験値の30%以下の差で推定できた.結果,案内の全体の摩擦力は球1個1個の摩擦力の和によってあらわされることが分かった.
静電気力と超音波振動を用いたナノブラスト研磨用砥粒粒径の均一化
ナノ粒子を高速で噴射できれば,Ra 1 nm 程度の仕上げ面粗さと加工装置の単純化を両立させた研磨手法を実現できる.仕上げ面粗さを小さくするには,砥粒径を小さくする必要がある.しかし,自然状態でナノ粒子は凝集することが知られている.本研究では超音波振動と静電気力を用い,ナノ粒子の凝集粒子の粒径を小さくしかつ均一化する方法を検討し,凝集粒子の粒径の均一化の可能性を示した.
非接触荷重発生装置を用いた工作機械主軸の振動特性の解析
工作機械の性能評価において,主軸回転時の動剛性が重要である.そこで,動剛性の逆数である動コンプライアンスを,電磁力を用いた非接触加振により測定する方法について検討する.従来の方法では,動力計で加振力を測定し,変位センサで主軸変位を測定して動コンプライアンスを求めていた.しかし,加振力測定のためには,十分な応答性を持つ動力計が必要になる.本研究では,電磁力を発生させるためのコイル電流の測定値を用いて加振力を計算し,動コンプライアンスを推定する方法を検討した.推定された動コンプライアンスは測定された動コンプライアンスと比較的一致した.
単粒子研磨の原子スケールシミュレーション
研磨加工は古くから用いられてきたが,プロセス根本の理解につながる研究は多くない.分子動力学シミュレーションを用いた研磨加工の再現が取り組まれているが,解析できるスケールに上限がある.そのため,研磨加工のプロセス理解には,より大きなスケールで解析を行う必要がある.本研究では,Quasi
continuum methodを用いたシミュレーションにより,単粒子研磨における表面形状の解析を行った.